AIがこのまま進化を続ければ、翻訳スタイルが変化することは確実
翻訳者の仕事は品質管理業務に集約される
AI翻訳と翻訳者による翻訳:現在の翻訳スタイル
海外と関わる仕事には必ず翻訳業務が発生します。
メディア翻訳
日々流れるニュースで取り上げられるさまざまな話題(社会、政治、ビジネス、国際、科学、文化、スポーツ、教育、暮らし、など)や海外の作家が執筆した書籍、外国で製作された映画、TVドラマ、ドキュメンタリー番組やアニメ、音楽番組などのエンターテインメント作品まで、翻訳を必要としない分野は現代においてはほとんどないでしょう。
上述の各メディアについては、国内向けに外国語から日本語という流れと、(ボリュームは国内向けよりは小さいと思われますが)海外向けに日本語から外国語という流れがあります。
産業翻訳
ビジネスの世界も英語をはじめとする多言語の翻訳なしには成り立ちません。
ビジネスにおける翻訳は、日常的な報告業務でEメールに添付する資料からはじまり各種マニュアル類まで、海外進出している企業にとっては相当なボリュームになっているでしょう。
現在はまだ、言語の方向性(外国語から日本語、日本語から外国語)に関わらず、一部の産業翻訳とパターン化できる文章を除き、原文を一から翻訳者が翻訳するスタイルが一般的です。
同時にさまざまな文章を機械翻訳し、それを翻訳者がチェックしてこなれた文章に修正していくという試みを始めている翻訳会社も多いと聞きます。
翻訳メモリ
現在でも、人による翻訳、AIによる翻訳の別を問わず、特に文章量が多い場合には、翻訳メモリ*を使って翻訳が行われているが、実際、こうしたデータベースを活用したAIの翻訳精度とスピードは今後益々高まっていくことが予想される。
*翻訳メモリ:
詳しい説明は専門家が書かれた文章を参照いただきたいが、簡単に言うと、原文と翻訳文をペアで(主に文節単位で)TM (Translation Memory)と呼ばれるデータベースに登録・保存し、それを再利用するというもの。ある程度パターン化することができる文章(例えば、特許関連や各種マニュアル類の一部の雛型など)では、既にかなりの精度になっていると聞く。
これは余談ですが、ニュースなどの場合、外国語が堪能であれば海外メディアから発信されている情報を原文で読むという選択肢もあります。
しかし、日本の放送局や通信社系のサイトはもちろん、世界各国のサイトにも日本語版が用意されていることが多くあります。
こうした翻訳文は、原文からは他言語に変換しにくいニュアンスを、読み手の文化や概念にあてはめて分かりやすく(原文の意図からは大きく離れないように)意訳してあります。
そのため、情報にさっと目を通すには、こうした翻訳文を読む方が効率的でしょう。さらに詳しく内容を確認したい、あるいは、翻訳が追い付いていない(例えば、昨今ではCOVID-19関連の)ニュースであれば、原文で読むようにすると、短時間での情報収集が可能になります。
AI翻訳と翻訳者による翻訳の今後
AI翻訳
さて、「現在の翻訳スタイル」の項で見てきたとおり、現在でも文章の種類によっては、かなりの確率でAI翻訳が取り入れられています。
そこで、現在は翻訳者が翻訳している文章についても、今後AI化する可能性はないのか気になるところです。
筆者の感覚では、YESとNO半々ではないかと思います。
その理由は、次のとおり:
- 翻訳は翻訳メモリの量と質(登録された内容)に依存するため、前例がない、パターン化しにくい文章には適さない。
- そのため、言語によってニュアンスが異なる(直接、対応する言葉がない)文章を多く含む場合、AI化はしにくい。
- 今後、技術が大きく発展して、データベース(TM)がさらに巨大化し、どんな文章でも(異なるニュアンスでさえも)適訳を瞬時に取り出すことができるようになれば、AI化する可能性はある。
翻訳者と翻訳の今後
それでは、今後、翻訳という仕事はなくなるのでしょうか?
その答えもYESとNO半々です。
どういうことかと言うと、
- データベースに蓄積されるデータ量が日々増え、検索機能も今後さらに充実していくことを考えると、AI翻訳が可能な文章は今後増え続けることが予想される。その場合、現在、翻訳者が翻訳している文章の多くがAI化される可能性がある。
- しかし、先ほどの#2で述べたようなパターン化しにくい文章については、今後も(少なくとも、当面は)翻訳者が翻訳することになると思われる。
- 今後、翻訳の大部分がAI化されても、チェックの工程は残る。どんなに機械化が進んでも、最終的な品質チェックは人がする必要がある、というのが業界関係者の見方である。
この点については、前述の「さまざまな文章を機械翻訳し、それを翻訳者がチェックしてこなれた文章に修正していくという試みを始めている翻訳会社も多い」のとおりです。
これが、現在示唆される翻訳を巡るおおよその方向性です。